
速くなったフォックストロットから生まれた
クイックステップのルーツは、20世紀初めのアメリカで流行したフォックストロットです。1910年ごろ、ワンステップなどとともにテンポが速くなっていき、その踊りが1914年に英国へ伝わりました。
1920年代、英国ではフォックストロットの踊り方が整理され、1924年ごろにはゆっくりの踊りと速い踊りに分けられます。速い方は「クイックタイム・フォックストロット」などと呼ばれ、当時流行していたチャールストンとも結びつきながら、軽快な踊りとして形づくられていきました。
1927年ごろには「クイックステップ」として形が定まり、翌年には競技の種目にもなりました。100年ほど前の英国の舞踏室で育った、活気ある踊りです。
同じ祖先をもつ、スローフォックストロットとの違い
クイックステップとスローフォックストロットは、同じフォックストロットから分かれた兄弟のような種目です。でも、踊りの表情は正反対。なめらかに長く進むスローフォックストロットに対し、クイックステップには軽やかに走り、跳ねる楽しさがあります。
ワルツと共通する回転やシャッセ(足を寄せて横へ進む動き)も多く使いますが、速いテンポの中でステップをつないでいくのがクイックステップならでは。スタンダード5種目の一つで、世界中の競技会で、伝統的に最後に踊られる種目です。
スタンダードの5種目を見比べると、クイックステップがいちばん軽快で、にぎやかな印象を受けるかもしれません。同じスタンダードでも、こんなに表情が違うのかと驚く方もいるでしょう。
「踊りのシャンパン」と呼ばれる華やかさ
クイックステップは、「踊りのシャンパン」と呼ばれることがあります。伸びやかな動きの間に、ホップ(小さく跳ねる動き)やランニング(小走りのような動き)が入り、踊り全体がシャンパンの泡のようにきらきらと弾んで見えるからです。
速い曲でも、二人はせかせか動くのではありません。ゆっくりの一歩も速い数歩も、体はほぼ同じスピードで進み、すいすいとフロアを移動していきます。そのなめらかな勢いに、クイックステップらしい爽快さがあります。
ビッグバンドの演奏に乗って、何組ものカップルが軽やかに行き交う様子は、見ているだけでも心が弾みます。踊る人も見る人も明るい気分になれる種目です。
1分間に約50小節。速い4拍子を、軽やかに
音楽は4拍子で、テンポは1分間に50〜52小節ほど。スローフォックストロットのおよそ倍近い速さで、スウィングやビッグバンドの明るい曲がよく使われます。
リズムは、2拍の「スロー」と1拍の「クイック」の組み合わせ。速い曲なので、最初は足を動かすだけで精いっぱいかもしれません。でも、ステップの順番が体に入ってくると、ふっと音楽に乗れる瞬間がやってきます。
大きく跳んだり、速く走ったりするのは慣れてから。まずは小さな歩幅で、音楽の拍に遅れずにステップを置くことから始めれば十分です。
ワルツの経験が生きる、元気な種目
クイックステップは、速いテンポの中で多くのステップをつなぐため、ワルツなどで組んで動くことに慣れてから習い始める人もいます。ワルツと共通する動きもあるので、ワルツで覚えたことが役立つ場面もあります。
最初は息が上がるかもしれませんが、短い組み合わせを繰り返すうちに、少しずつ余裕が生まれてきます。始める種目や順番は教室によって違うので、気になる方は相談してみてください。
軽快な曲に乗って、二人でフロアを駆け抜けられたときの爽快感は格別です。踊り終わったあとに、思わず笑顔になってしまう。そんな楽しさのある種目です。
まず聴きたい『Steppin' Out with My Baby』
クイックステップの雰囲気を味わうなら、アーヴィング・バーリンの『Steppin' Out with My Baby』を聴いてみてはいかがでしょうか。1948年の映画『イースター・パレード』のために書かれ、フレッド・アステアが歌って踊った曲です。
軽やかに弾むメロディーと、明るいビッグバンドの響き。「恋人と出かけよう」という歌の内容どおりのうきうきした気分は、クイックステップの楽しさにぴったりです。ダンス教室のクイックステップの曲の例として挙げられることもあります。
映画のオリジナル、ジャズ歌手のカバー、ダンス用に編曲された演奏など、さまざまなバージョンがあります。テンポは演奏によって違うので、踊るときはクイックステップに合う演奏を講師と選びましょう。
定番だけではなく、新しい演奏や好きな音楽でも
クイックステップの楽しみは、昔のスウィングの名曲だけではありません。今のポップスやミュージカルの曲を、軽快なビッグバンド風に編曲した演奏もたくさんあります。同じステップでも、曲によって、かわいらしくも、ゴージャスにも感じられます。
『Steppin' Out with My Baby』を入口にして、「この曲なら元気に踊れそう」と思える一曲を探してみてください。踊る仲間とお気に入りを教え合えば、練習の時間もいっそう楽しくなります。
SNSでは、「クイックステップ」「Quickstep」などの名前で探してみてください。フロア全体が映る映像では、何組ものカップルが行き交うにぎやかさも味わえます。
100年前の英国の舞踏室から続く、軽やかで明るい踊り。走って、跳ねて、二人でフロアを駆ける楽しさを、ぜひ味わってみてください。
参考・確認した情報
歴史・テンポ・動きの特徴はダンス団体の資料、曲の情報は映画音楽の資料とダンス教室の曲紹介で確認しています。確認日:2026年10月30日。